タイ、インドネシアで急伸する中国製EV/産業界から「日本政府の怠慢のせいだ!」

2026年2月号 POLITICS

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大鷹正人・在タイ日本国大使(同HPより)

日本車の金城湯池と言われる東南アジア市場で中国車が存在感を高めている。その理由について、「日本政府の怠慢のせいだ」という声が日本の産業界から出始めている。

タイやインドネシアでは中国がEVを中心に輸出攻勢を強め、日本車のシェアを奪っている。平等な競争条件の下で日本車が負けているのであれば文句は言えないが、タイ政府は中国製EVを関税ゼロで受け入れているのに対し、日本車には関税をかけている。両国では日本の自動車産業が現地へ投資して経済の発展に貢献してきたが、面子は丸つぶれの格好だ。

中国も日本もタイとは自由貿易協定(FTA)を結んでいるのに、明らかにタイ政府は中国を優遇している。この原因について「在タイ日本大使館の交渉力が弱体化しているからだ」と、ある政府関係者は打ち明ける。

タイ政府内には自動車産業に関して政策を決める複数の機関がある。EVの国産化などの方針を決めるEV委員会や、関税局、部品の国産化などを進める自動車研究所などだ。中国は官民一体となってこうした組織にロビー活動を仕掛けて中国寄りの政策を引き出している。

「中国はタイから果物の輸入量を減らすという脅しをかけながら、タイ語やタイ経済の専門家を対応チームに集めて巧妙にタイ政府に働きかけている」(前出関係者)という。

たとえばタイ政府は輸入台数と同じ台数のEVの現地生産を中国に求めているが、中国側はその規制の先延ばしと骨抜きを図っている。一例を挙げるとタイで勢いを増す中国BYDは累計で16万台程度売っているが、現地生産は3万台程度しかない。本来であれば現地生産をさらに拡大しなければならないが、関税ゼロのメリットを生かして輸出攻勢をかけている。

日本企業の幹部からはこんな批判も出ている。「在タイ日本大使館の大鷹正人大使は歌舞伎役者をタイに呼ぶなど文化交流には熱心だが、国益にとって重要な経済対応にはほとんど手を付けていないのではないか」

もっとも大鷹氏ばかりに責任があるわけでもないようだ。日本政府と東南アジア諸国連合(ASEAN)が協力し、次世代自動車産業戦略マスタープランの策定に動き、昨年9月に中間報告としてその骨子が発表されたが、その中に中国車の分析がほとんどないことに驚いた専門家もいる。日本政府の危機感の欠如と言えるだろう。

かつて経済産業省のキャリア官僚だった松島大輔氏は異例の人事でタイ政府顧問としてバンコクに赴任して現地に食い込んだ。しかし、こうして専門性のある、地道に努力する官僚は今や霞が関では評価されない。首相官邸の覚えがめでたくないと出世の道は開けないため、官僚は時の政権が興味のある政策ばかりに注力するようになった。

インドネシアでも中国車が侵食してきて今や15%のシェアを保有する勢いだ。インドネシアは自動車産業だけに限らず、エネルギーの輸入などを含め、日本にとっては第三位の貿易相手国。そのインドネシアで大使不在の状況が3カ月以上も続いているのだ。

石破政権は昨年10月10日、在インドネシア日本大使に官房副長官補だった市川恵一氏を起用することを閣議決定し、同16日付で就任したが、その後誕生した高市政権がその人事をわずか5日で覆した。市川氏を国家安全保障局長に起用したためだ。

こうした人事をすれば、インドネシアから「日本は我が国を重視していないのか」と見られても仕方ない。これでは中国にさらに付け込まれることになる。

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