本誌独占/仕手筋の駆け込み寺/「監査法人アリア」が手のひら返し/「市場浄化」の号砲か

仕手界隈にとっての関心事は後継監査法人が現れるかどうか。筆頭候補はプログレス監査法人だが。

2026年2月号 DEEP

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茂木秀俊代表(アリアHPより)

これは「ハコ会社」とそれを弄ぶ仕手連中にとって捨て置けない事態に違いない。問題企業にとって事実上の「駆け込み寺」となってきた「監査法人アリア」の姿勢に異変が生じ始めている。手のひらを返したように、ここ半年でクライアント企業の会計監査人から次々と降りているのである。

「海帆」の監査人を突如辞任

昨年12月24日、東証グロース上場の海帆は期中にもかかわらず会計監査人の交代を発表した。会社側の意向に沿いアリアが辞任、かわって一時会計監査人に「プログレス監査法人」を選任するという。一見すると円満な交代だが、発表資料を子細に読み解き、直近に起きた新規事業を巡る不可解な出来事を辿ると、会社側とアリアとの間であったに違いない会計処理を巡る対立が浮かび上がる。じつのところ、同社がアリアを選任したのはつい半年前のことだった。

もともとは居酒屋チェーンの海帆はコロナ禍で大打撃を被り経営が混迷、素性が定かでない受け皿会社などを割当先に増資を繰り返し、発行済み株式数は15倍近くに膨張、株価は乱高下してきた。

この間、経営陣や大株主は目まぐるしく変転。2022年8月に社長となった吉川元宏氏は前年4月に上場廃止間際の五洋インテックスを唐突に買収した人物。もっとも、在任期間はわずか1年半ほどだ。これと入れ替わるように、大量保有報告書を提出したのは大阪を拠点とする投資家の山田亨氏。直近の保有割合は約16%とされるが、株主名簿でそれらしき名義は確認できない。山田氏はSNS上で「トンピン」を名乗り注目を集める一方、22年にニチダイ株の株価操作事件で有罪判決(懲役1年6月・執行猶予3年・追徴金約1.9億円)を受けた人物だ。

そんな中、会社は増資調達資金を脈絡もなく次々と新規事業に注ぎ込んでいる。太陽光発電所投資や医療法人支援サービスに続き、昨年2月に突如ぶち上げたのはネパールでの水力発電事業である。とはいえ、それは最初からいくつもの疑問符がつく案件だった。

買収対象会社の「NEPAL HYDRO POWER HOLDINGS」を確認しようと東京・東麻布のビルを訪ねたが、事務所は見当たらない。そこで905号室のインターホンを押したところ、片平真樹氏なるスウェット姿の人物が現れ、多少は事情を知っている様子だ。が、詳しいことは登記上の代表取締役に訊いてくれという。

中国出身の片平氏はかつてエフェクター細胞研究所(12年上場廃止)やNowLoading(14年上場廃止)の増資で登場したことがあり、後者を巡っては宝石販売会社時代からの知人との間で借金トラブルともなった。23年10月に香港で「Nepal Hydropower Plant」なる法人を設立しているところから、この話の発端に関係していそうだが、肝心の法人は香港の金融関係者に売却済みらしい。

そんな塩梅だったから、案の定、海帆は買収の半年後に投資簿価のほぼ全額約21億円の減損損失を計上する始末だった。しかも、現地の政情不安にかこつけて早々と事業撤退まで決めてしまう。その背景にあったとみられるのが、アリア側の厳しい監査姿勢だ。海帆は会計監査人の交代と同時に一転して件の事業を再開すると発表しており、それが何よりの証拠と言える。

かねてから仕手界隈では「駆け込み寺」とも言える監査法人の存在が指摘されてきた。大手・中堅が不祥事リスクの高い「ハコ会社」を敬遠する一方、それらを次々と引き受ける新興監査法人がいる。最初に注目されたのは「監査法人ウィングパートナーズ」で、同法人は杜撰な監査姿勢が問われた代表者が金融庁から業務停止処分を受けたことから09年に解散。すると、それを穴埋めするように「監査法人元和」が登場。ただ、同法人も所属会計士の離脱で21年には解散に追い込まれている。

そこで台頭したのがアリアだ。昨年7月末時点で会計監査人を務める上場企業はじつに38社。株主総会の取締役選任決議を巡り裁判沙汰が続く昭和ホールディングスや、実質的な支配株主が取締役でもないのに「会長」を名乗り経営を牛耳る一方で買収先企業の巨額損失が噴出したREVOLUTIONなどいわく付きの会社ばかりだ。大株主や経営陣が中国系といった先も少なくない。現状、アリアは非常勤も含め総勢51人(うち公認会計士24人)でそれらを担当、25年7月期の売上高は約11億円と前期から3割増の勢いだ。

アリアの代表者である茂木秀俊氏はかつて赤井電機(00年に民事再生法申請)の末期に監査を行ったことで注目された。香港資本傘下で債務不履行状態に陥った同社に対し、会計監査人に急遽名乗り出た茂木氏はまだ日本企業で珍しかったゴーイングコンサーン(継続企業の前提)に関する特記事項を指摘、投資家に経営破綻を警告した。「我々から見て、ちょっとやり過ぎ」と会社側が嘆息するほどの綿密な監査ぶりだったという。

毀誉褒貶の茂木秀俊代表

他方、架空循環取引が売上高の大半を占めていたメディア・リンクス(04年上場廃止)で大手の後釜を務めた際は会社側の業績上方修正の嘘を見抜けなかったことが物議を醸した。その後に設立したアリアは17年、公認会計士・監査審査会による検査の結果、監査手続きの不備が問われている。審査会は金融庁に対し行政処分を下すよう勧告したが、アリア側は猛反発して提訴。裁判は1審、2審ともアリアが敗訴しているものの、処分はいまだ下っていない。

そんな毀誉褒貶が相半ばし、波瀾万丈の茂木氏率いるアリアだが、昨年7月以降はクライアント急増から一転して姿勢硬化が目立つ。

最初に辞任届を突き付けたのはGFA(現abc)だった。一時期は元ライブドア幹部の宮内亮治氏が深く関与した会社だが、事業の変遷は頻繁。外国人監禁事件で嫌疑をかけられた人物(結果は不起訴)が経営する土建会社に対し4億円前後の貸し付けを行っていたなど、きな臭さも拭えない。昨年4月から社長を務める松田元氏はかつてオウケイウェイヴ(現オーケーウェブ)を率いた経営者だが、保有株の大量売却がインサイダー疑惑を招いた過去がある。

続く昨年11月にアリアが三行半を突き付けた先は、abcの提携先でもあるピクセルカンパニーズだった。歴代社長に不祥事が持ち上がってきた会社だ。その頃、関係筋の一部が連携を狙って地域新聞社の株買い占めを手掛けていたフシもあるが、後任監査人をとうとう見つけられないまま、ピクセルカンパニーズは昨年12月に上場廃止決定と相成っている。

今や仕手界隈の人々にとっての関心事はアリアの後継監査法人が現れるかどうかだろう。その点、先述のプログレス監査法人は筆頭候補。24年12月に設立されたばかりだが、すでに上場企業の契約獲得先は5社(うち創建エースは昨年9月上場廃止)を数える。

ただし、代表社員の柴田洋氏は昨年4月に審査会から処分勧告が出ているので早くも波乱含み。「駆け込み寺」の盛衰はこの先の市場浄化を占うことにもなりそうだ。

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