トヨタ白川郷自然学校/子どもたちに「共生」と「生きる力」を伝承

「幸せの量産」を目指すトヨタ自動車が、取り組む社会貢献活動

2026年5月号 INFORMATION

夏休みに行われる30日間の「ぶんなり森人キャンプ」に参加する子供たち

大小100棟余りの「合掌造り」が残り、世界遺産に登録されている白川郷(岐阜県白川村)。日本の古くからの農村文化や生活、暮らしを深く感じることができ、四季折々に変化する壮大な自然が来る人を魅了する。

そんな自然豊かな白川郷に、トヨタ自動車が創立した学校がある。合掌造り集落から、程近い山間に位置する「トヨタ白川郷自然学校」だ。宿泊機能を備えた自然体験型施設で、休日は多くの家族連れが訪れ、平日は学校や企業など団体の受け入れを行っている。年間1万人以上が訪れ、2005年4月の開校以降、累計約30万人が利用している。

自然から学ぶ「協力」の精神

自然学校に飾られている「共生」と書かれた故豊田章一郎名誉会長直筆の書

トヨタが自然学校を開校した理由について、社会貢献部地域貢献室の國友淳子室長は「故豊田章一郎名誉会長の思いが反映されている」と説明する。自然学校は「愛・地球博(愛知万博)」が開催された05年に開校した。豊田氏は愛知万博の会長を務め、自動車産業における自然環境の保全と自然との共生を重視する活動に力を入れていた。自然学校を通じて、「(名誉会長は)自然との共生をきちんと子供たちに伝えていくことが今後の地球環境を守ることになるという思いが強くあった」(國友氏)。生前、豊田氏は学校によく足を運び、いつも気にかけていたという。

自然学校は「自然の中で感動し、自然の営みを学び、自然の叡智に気づく」ことを理念に掲げている。特に次世代を担う子供たちに、心に残る原体験を通じて、自然とのつながり、人間関係、協力することの精神を学んでほしいという思いを持ち、運営されている。

標高700メートルに位置する自然学校は、背後に白山国立公園を従え、東京ドーム37個分にあたる172ヘクタールの敷地面積を有する。周辺にはブナの原生林が広がり、ニホンカモシカやウサギ、キツネ、タヌキ、ニホンザル、ツキノワグマなどの野生動物が生息する。学校内には宿泊施設やセミナーハウス、レストラン、天然温泉が併設され、屋外には、合掌家屋やピザ窯を備えたオープンハウス、水田、畑、観察歩道などがあり、自然を存分に楽しめる。春は新緑、夏はキャンプや昆虫採集、秋は紅葉、冬はスノーシューハイクなどの雪遊びを体験できる。

施設を訪れる多くの利用者が参加するのが森の達人と行くガイドウォークだ。学校内にある「どんぐるみの森」には、たくさんの樹木や草があり、さまざまな動物が生息する。自然が大好きで白川郷に移住し、開校当初からスタッフとして働き、ガイドを担当する黒坂真さんは「訪れる人に、森に関するどんな話が好きなのかを尋ねて、好みに合わせて案内している」と話す。

動物が好きな人には食事の痕跡や寝床、足跡を辿りながら、生態を詳しく説明。森を体感したい人には、樹木や草に触れ、匂いを嗅いでもらい、風や小川、鳥の鳴き声を聞いてもらう。歴史が好きな人には地域の伝統文化の話をする。例えば、森の中には落葉低木のマンサクがある。マンサクは、この地域では「ネソ」と呼ばれており、枝が強いため、合掌造りで骨組みの木を結びつけるために使われている。このほか、森には根元が曲がった木もあり、豪雪の重みに耐える合掌造りの骨組みに活用されている。達人は自然環境と共生する先人の知恵も伝える。ガイドウォークは車いすの方でも、五感で自然を体感できるプログラムも提供している。

30日間キャンプで「自信」を体得

自然学校内にある施設や合掌家屋

夏休みには小学4年生から中学3年生までを対象にした30日間の「ぶんなり森人(もりんちゅ)キャンプ」が行われる。昨年は11人が参加した。合掌家屋やテント、秘密基地に宿泊し、お互いに協力しながら、共同生活を行う。毎晩、作戦会議を開き、翌日に何をするのか、みんなで話し合う。火を操り、ドラム缶風呂に入ったり、川で魚を捕まえたり、澄んだ空気の中で満天の星空を眺めたり、都会では味わえない体験ができる。

2日間かけて、白山国立公園内の大白川園地から自然学校まで30キロを歩く旅や、森の中でテントを使わず、3日間生活する「72時間ブッシュクラフトキャンプ」などハードな取り組みも実施する。「最初はホームシックになるお子さんもいるが、慣れてくると、みんなで助け合い、最後は協力することの大切さを学んでくれる」(黒坂さん)

自然と向き合う中で、考える力も養われる。学校内の小川にはイワナなどの魚がいる。以前、魚を捕まえられなかった子供が毎日、試行錯誤しながら、仕掛けの方法を改良し、キャンプ終盤で大量の魚を捕まえられるようになったことがあった。黒坂さんは「飛び切りの笑顔を見せた姿が忘れられない」と語る。子供たちは30日間のキャンプで、さまざまな経験をして、生きる力ややり遂げることの自信を身に付けていく。保護者からは「たくましい姿で帰ってきて成長を感じた」という声が多く聞かれるという。

夏休みには、小学生向けに2泊3日の「昆虫ハンターキャンプ」や「恐竜の谷探検キャンプ」も行っており、非常に人気が高く、すぐに定員が埋まるという。昆虫ハンターキャンプは夜に「ライトトラップ」を設置するというイベントがある。暗闇の中に白い布を張り、ライトを照らすと、そこに昆虫がたくさん集まり、それを捕獲して3日間観察する。40種類ぐらいの昆虫を採集できる。小学6年生から中学3年生向けの「ヒメオオクワガタリサーチ合宿」も、岐阜県屈指のブナ林で、3泊4日で実施する人気キャンプだ。研究者と一緒にヒメオオクワガタの生態を調査する。

できれば「トヨタファン」に

トヨタは「幸せを量産する」という考えのもと、さまざまな社会貢献活動に取り組んでいる。「自然環境・災害支援」「文化・芸術」「スポーツ」「交通安全」の4分野を軸に世界で活動を展開している。トヨタ白川郷自然学校も、自然環境の枠組みの中で、開校・運営されている。トヨタが社会貢献活動に力を入れる理由について、福井猛社会貢献部長は「車を持っていない方や車に乗っていない方にも、トヨタについて、少しでも知っていただき、それをきっかけに多くの方に車に関心を持っていただきたいという思いがある」と説明する。福井氏は「できれば、活動を通して、トヨタを応援してくれる方が増えてほしい」と話す。

(取材・構成/副編集長 黄金崎元)

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