皇室を貶めたのは誰か/欺瞞に満ちた「国会の総意」/「ラスト藩屏」麻生太郎の驕り

号外速報(7月9日 17:00)

2026年7月号 GLOBAL
by 吉原康和 (ジャーナリスト)

85歳には見えない「黒幕」麻生太郎副総裁

「天皇になり得る可能性がある」――。

旧11宮家の男系男子から皇族に迎えた養子の子が男子なら皇位継承資格を持つとした政府の皇室典範改正案について、首相・高市早苗は、もはや本音を隠そうとはしなかった。

7月6日の参院決算委員会。改正案の解釈を巡る発言とはいえ、養子の子が「天皇になり得る」という状況とは、皇統が今の天皇家の系統から約600年前の室町時代に分れた旧宮家の系統に移ることを意味する。

そこまでしても「男系男子継承」を守りたいのか。宮内庁にも衝撃が走った。

改正案には、養子の子に皇位継承資格を持つことを明確にするなど、衆参両院の正副議長による「国会(立法府)の総意」に記載のない内容が含まれており、立憲民主党代表の水岡俊一は7月6日の会見で、「皇室に関わることで騙し討ちと思える姑息な小細工は立法府に対して極めて失礼で、皇室を貶めるものだ」と非難した。

「静謐な環境」どころか騙し討ち

「養子案」を削除する修正案の提出を決めた立憲民主党の水岡俊一代表

改正案は①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する、②旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える――の2案が柱。

このうち、養子の子の皇位継承資格などについては、与野党の全体会議でも議論されていない内容だった。

2024年5月から始まった与野党の全体会議では、「静謐な環境」という名目の下、衆院議長公邸に、与野党13党派の責任者を集めて、皇族数の確保に論点を絞って検討を進めてきた。

だが、そもそも皇室典範改正に向けた議論の出発点は、皇族数確保が目的ではなかった。

上皇さまの一代限りの退位を可能とする退位特例法が17年6月に国会で成立した際の付帯決議では、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」や「女性宮家の創設」などの検討を政府に求めていた。

つまり、国会が政府に突き付けた宿題は、皇位の安定的継承策が本来の目的だったのだ。

それが皇族数の確保策にすり替えられたのはなぜか。皇位継承をテーマにすれば、「男系男子派」と「女性・女系天皇容認派」による国論を二分する論争に発展する。そこで、論点を皇族数確保策に限定し、国民の支持が高い女性・女系天皇を含む皇位の安定継承策の議論を封じ込めた。

ところが、典範改正の最終局面で、政府は自民党の主張に沿って、旧宮家の男系男子による皇位継承に踏み込んだ。水岡が「騙し討ち」と酷評するのも当然だ。

なりふり構わず「旧宮家の男系男子」

「麻生の懐刀」とされる山崎重孝・内閣官房参与

しかし、自民党からすれば「男系男子継承は一丁目一番地」であり、既定路線に過ぎない。

元首相の麻生太郎(85)の側近で衆院議長の森英介(77)は6月8日、養子縁組で皇族となった男子について「男の子が生まれれば、その子は皇位継承権を持つことになる」と発言したのも、その現れだ。

森は「将来の検討を先取りし、縛るような趣旨ではない」と釈明したが、森の発言を裏付けるように養子の子の皇位継承権が改正案に盛り込まれると、政府・与党は、なりふり構わず、養子として迎える旧宮家の男系男子の皇位継承も可能となる改正案を閣議決定し、国会に提出した。

表向きは「静謐な環境」を唱えながら、裏でこのような「荒業」による典範改正案の強行が可能になったのはなぜか。

背景には、今年2月の衆院選での自民党の圧勝があるが、2人の黒幕の存在が大きい。

自民党の「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」会長を務める麻生太郎と、麻生の懐刀とされる内閣官房参与の山崎重孝だ。詳しくは、本誌6月16日付の号外速報<保守派の悲願「旧宮家から養子」>をご覧頂きたい。

「ラスト藩屏」のレガシー作り?

「三笠宮寛仁親王妃家」当主の信子妃は、麻生氏の実の妹(宮内庁HPより)

かくして、麻生ら保守派の悲願は達成されたわけだが、麻生が養子案に強くこだわる理由がある。

「首相まで務めた麻生も齢(よわい)85歳。いずれ息子や娘に地盤を引き継ぐが、最後に皇室典範改正を成し遂げたというレガシーを残したいということではないか」――。政界関係者の一人は、麻生の野望をこう分析する。

 高祖父に明治維新の立役者である大久保利通、曽祖父に昭和天皇側近の牧野伸顕、祖父に元首相の吉田茂らが連なる華麗なる家系を誇る麻生。妹は「三笠宮寛仁親王妃家」当主の信子妃で、麻生本人も「皇室の防波堤」を自任する。かつて天皇や皇室を守護する旧華族を「皇室の藩屏(はんぺい)」と呼んだが、麻生家は、明治の元勲の系譜を引く「ラスト藩屏」だ。

「養子案」にさまざまな問題

欺瞞に満ちた「国会の総意」は瓦解

麻生には、長男将豊(41)と長女彩子(39)という有力な後継者もいる。85歳の今も正式に後継者は発表されていないが、「衆参2枠でダブル擁立」(政界関係者)の噂も絶えない。

改正案では、養子を受け入れる養親の対象となるのは、常陸宮、三笠宮寛仁親王妃家、三笠宮、高円宮の4宮家で、天皇、皇后両陛下と上皇ご夫妻、秋篠宮ご夫妻は対象外だ。

この4つの宮家のうち、信子妃が当主の「三笠宮寛仁親王妃家」は昨年9月に新設された。三笠宮家を継承した彬子女王とその妹の瑤子女王は信子妃の娘で、2人は麻生の姪に当たる。

ただ、信子妃と2人の娘の不仲は「公然の秘密」(宮内庁幹部)であり、「寛仁親王妃家」新設の原因とされた。

さらに皇位継承に目を向ければ、現在、皇位継承順2位の秋篠宮家の長男悠仁親王が結婚しても男子が生まれない場合には、現在の天皇家の皇統は途絶える。

戦後、国民と苦楽を共にしてきた象徴天皇像を追求してきた今の天皇家から、祖先が約600年前の室町時代に分れた旧宮家の系統に皇統が移ることになる。

実現すれば、皇室の歴史にとって重大な転換点となる。しかも、養子案はさまざまな問題を抱える。

憲法14条は、法の下の平等をうたい門地(家柄)や貴族制度による差別を禁止している。一般国民として生まれ育った人物を、男系の血を引くことを理由に特別扱いして皇族の身分にする養子案を違憲と見る憲法学者は少なくない。

誕生時に皇族でない人が養子となった前例もないと宮内庁は答弁しており、皇室の伝統とも相いれない。

「象徴天皇の土台」を揺るがす

皇室典範9条は、天皇や皇族が養子を取ることを禁じているが、その理由は「宗系の紊乱(ぶんらん)」、つまり、政治的思惑などの介入で皇統が乱れることを防ぐことが目的だった。当事者間の私的な合意が基盤となる養子縁組では、皇位継承の世襲の客観性が揺らぎかねないという懸念もある。

養子の禁止は、初代総理大臣を務めた伊藤博文が皇室典範制定で辣腕を振るった明治の大改革の一つである。伊藤が生きていたら、養子の復活の様子を見て、何と言うだろうか。

沈着冷静な大政治家だった大久保利道の血筋を引く麻生は、高祖父と似て非なりだ。昨年6月、当時の衆院の正副議長と立民代表の野田佳彦の4者会談で、いったんはまとまりかけた「女性皇族の身分保持案の先行合意」を拒否する「ちゃぶ台返し」でつぶした。

旧宮家の男系男子孫の養子縁組による皇族復帰と、皇族の養子の復活に手を貸す明治の元勲の子孫。戦後、日本国憲法の下で否定されたかつての特権階級が、養子の復活とともによみがえるのか。

「各会派が一致していないものが法案となって出てくる以上、とても賛成できない」

立憲民主党幹事長の田名部匡代は7月8日の記者会見で、改正案に反対し、「養子案」を削除する修正案を提出する方針を明らかにした。欺瞞に満ちた「国会の総意」が音を立てて崩れた瞬間だ。

「皇室の在り方や活動の基本は国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考える」

今上陛下は6月の欧州出発前に語ったが、「静謐な環境」とは程遠い事態に、宮内庁関係者が語る。

「象徴天皇の在りようの土台を揺るがせにしてはならない」

(敬語敬称略)

東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)において、ご供花になる天皇皇后両陛下と愛子内親王殿下(宮内庁HPより)

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著者プロフィール

吉原康和

ジャーナリスト

主な著書に『令和の代替わり─変わる、変わらない伝統』(山川出版)、『靖国神社と幕末維新の祭神たち─明治国家の英霊創造─』(吉川弘文館)などがある。